アジア人女性ヴァイオリニストの先駆け
チョン・キョンファのフランス・ヴァイオリン名曲集を紹介したい。この作品は韓国の有名ヴァイオリン奏者チョン・キョンファが1977年にシャルル・デュトワとロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団と共にDECCAに録音した1枚である。キョンファは70年代の初めからクラシック界においてアジア人として第一線で注目され続け、現在でも活躍している。 初期の録音は情熱的で切れ味鋭い音色が特徴的だったが、年を重ねる毎にしなやかさが加わり、女性の色気、円熟した雰囲気を感じる表現も出てきた。
荒々しくも官能的に
その転換期にあたる作品である。フランス・ヴァイオリン名曲集ということで何曲か録音している。醸し出されている情感深い表現はそれまでの力強さを前面に打ち出していた彼女のトレードマーク的な演奏スタイルに加え、今までにない新しい一面を付加している。情熱的で少し荒々しいところが反対に女性らしく官能的な表現となっており、ショーソン:詩曲は実在の世界が如くその身を引きずりこまれるかのように聴き入ってしまう。シャルル・デュトワとロイヤルフィルがフランス音楽を熟知していることによって奏でられているという点も表現を大いにバックアップしているポイントだ。
オランダプレスの利点
先日、当店で販売したレコードはDECCAのオランダ・プレスになる。オリジナルはUKプレスで、他にもジャケット違いで US ロンドンと日本盤もプレスされている。日本盤ではスーパーアナログ盤もキングレコードから発売されている。やはりUKオリジナル・プレスが一番人気で高価だが、なかなかUKプレスは出回っておらず、UKの半値ほどのオランダ・プレスが多い印象だ。音質は少しおとなしい印象だが鮮度はなかなかだと思う。UKとの値段からも見ても考慮に値するところだ。スーパーアナログ も同等の値段と考えると、私はオランダ・プレスを選ぶ。音質とは関係ないが、UK盤に比べ若干ジャケットのコーティングが薄いといった質感の面が少し残念だ。
おすすめ盤
やはりデビューアルバムのチャイコフスキー/シベリウスのヴァイオリン協奏曲、またはその持ち前のキレのあるヴァイオリンが思う存分堪能できるプロコフィエフだ。CD になってしまうが(近年韓国よりLP化された)、88年のクリスチャン・ツィマーマンとのデュオで演奏しているR.シュトラウスのヴァイオリン・ソナタもしなやかな美音に浸れ、こちらもおすすめ。ぜひチェックしてみてほしい。