抜群のリズム感
アリシア・デ・ラローチャはスペインを代表するピアニストで1923年に生を受け2009年で生涯を終えるまでに約70年にも及ぶ長い期間において活動した。
彼女のピアノの良さを一言で表すとすればリズム感だろう。リズム感がすこぶる良い。スペイン特有の血があるからなのだろうか、くせのある技巧はなく聞き手に語りかけてくるようなピアノを弾く。アルゲリッチと共通している感触があり、そこは女性でかつラテンの血というところからかもしれない。感情豊かで情熱的なアルゲリッチよりもう少し理知的なピアニズムを持っていると個人的には思う。
録音も名門DECCAを中心にかなりの量を録音している。ビッグネームの後ろにちょっと隠れがちになるがいずれにしろ偉大なピアニストの一人であることには変わらない。
内気なモンポウ
現代の作曲家のフェデリコ・モンポウもスペインの生まれで1987年没年。楽曲の特徴としてスペインの作曲家はその色彩豊かなお国柄、明るいというイメージが先行してしまうが、彼は対照的に大人しく静謐な曲を好んで書いた。性格的にも前に出れないタイプで演奏家ではなく作曲家の道を歩まざるをえなかったようだ。
スペイン音楽よりもフランスの音楽を学んだことにより、フランス近代音楽のアプローチが色濃く出ている。エリック・サティなどが好みの方には合うと思う。短い曲が多く、クラシックとしては聴き易い。
頭からお尻まで
本作はスペイン人のラローチャがスペイン人のモンポウの曲を弾いている。同郷同士で親交があり、演奏曲の中にはラ・ローチャに捧ぐという前奏曲までありその度合いが窺い知れる。また初期のから晩年の曲まで幅広く演奏しており、モンポウのが頭からお尻まで楽しめる構成になっている。
演奏はとても繊細で内向きな楽曲が多いが、ラローチャはその楽曲のイメージをよく理解している。崩すことなく音と音の隙間のピアノの余韻を大事にしながら弾いているように感じる。激しく揺さぶられるような音楽ではないが、静かな音量に丁度良い、とても落ち着いた趣のある良い演奏に仕上がっている。現在のコロナ禍のようなとても明るくするような雰囲気ではない時に、寄り添ってくれる曲でもあると思う。
繊細な魂のかすかな震えや、漂う哀愁のゆるいやかな揺らぎが、美しいピアノ音に乗って浮遊する
クラシック名盤大全 器楽曲篇 P175 ONTOMOBOOK
おすすめ
モンポウの作品を聴き進めるなら、モンポウの自作自演の録音がある。レコードはEnsayoレーベルより5枚組(Eny 701/705)、
CDは4枚組、リンク参照https://www.hmv.co.jp/en/news/article/402040044/
なんと81歳の時に録音しており、 最後の記録とも言うべき作品であろう。ほぼモンポウの音楽の全体像が聴けると思う。 画像はCD。
ラローチャはスペインの作曲家の作品においては右に出るものがないというほど素晴らしい録音が多い。アルベニスの作品をDECCA/LONDONで多く録音している。
いずれも素晴らしくそのスペインの色彩豊かな表現をピアノで表現している。イベリアは特におすすめだ。