PIM JACOBS / COME FLY WITH ME オランダ盤/PHILIPS

オランダジャズピアニストの巨匠

今回はオランダのジャズピアニスト、ピム・ヤコブスの「Come fly with me」を紹介する。ピム・ヤコブスは50年代から80年代まで結構長い期間活動した。オランダのジャズピアニストとしては大御所と言っていいだろう。弟のルード・ヤコブスもベーシストとして共に活躍した。初期はアメリカのジャズの影響がかなり強くブルース色濃いスタイルのピアノだ。時代が進むにつれて、ヨーロッパナイズドされた、透明感のある端正でキレのあるタッチに移っていく。

公私の伴侶

wikimedia.orgより

リタ・レイスとアン・バートン、オランダにはヨーロッパを代表するジャズボーカリストが二人いる。その一人リタ・レイスの歌伴をしたのがピム・ヤコブスである。60年にめでたく結婚し、そこからは公私ともに作品を出し続けた。仲が良すぎだ。ピム・ヤコブスは歌伴の作品でも随所にキレのある演奏を見せるが、あくまで脇役といった面持ち。妻を立てる何とも器のでかい旦那である。こちらとしては立ち位置を意識して、主役を食わない線をぎりぎり攻めながらもまとまった演奏が、聴いていて嬉しい。

枯葉を聴き比べよう

本作は82年に久しぶりにピアノトリオとして録音された。もともとはこのジャケットに映っている飛行機、オランダ航空のプロモーション用のレコードだとされているが、内容はそんなこと一切関係ない素晴らしいジャズが録音されている。
聴きどころは彼の音楽性の集大成とも言える、テクニックに裏打ちされた切れ味鋭いタッチ。80年代フィリップスならではの高密度なカッティングが、ヤコブスの透明度の高い音との相性の良さもあって、この作品の価値を更に高めている。白眉は枯葉で、一度聴いたら病みつきになる、流麗な上に見事にドライヴする演奏が聴ける。60年代にも枯葉を録音しているが、聴き比べると歳月を経て、まったく違うニュアンスのプレイに変わっており、彼の懐の深さを確認出来ると思う。ちなみにこちらはドラムレスで代わりにギターが入ってのトリオ編成になる。随所随所でリズムメーカーが目まぐるしく変わり試行錯誤が見て取れる。弟ルードのべたべたなソロも若さの至りで可愛げがあるが、後年の方ではスキのないびしっとしたリズムキーパーに徹していて、彼の成長も感じ取れる。

おかわり盤

やはり妻のリタ・レイスをバンドメンバーに入れて録音された作品「Marrige in modern jazz」は外せない。結婚した時に制作した作品であり、もちろんボーカル作品なのだが息の合ったプレイを聴かせるヤコブスもさすがといった名盤のひとつである。

先に挙げたもう一人のジャズボーカリストのアン・バートンの歌伴をしていたルイス・ヴァンダイクの作品「When a man loves a woman」彼は少しイージーリスニング向きのスタイルでジャケもそっち方面の雰囲気だが、オランダを代表するピアニストであり、ピム・ヤコブスのピアノの音色が好みの方におすすめする。